「傘を持っていくべき?」——空を見て、「雨は降りそう?」→はい、「風は強い?」→いいえ、だから折りたたみ傘。私たちが日常でやっているこの枝分かれの判断を、そのまま図にしたのが「決定木(けっていぎ)」だ。機械学習のなかでもっとも直感的なモデルで、AI入門の最初の一歩によく選ばれる。
決定木は、データに「はい/いいえ」で答えられる質問を重ねていき、最後に答え(予測)へたどり着くしくみだ。難しい数式を知らなくても、図を1枚見れば動きが腹落ちする。まずはその枝分かれを覗いてみよう。
決定木は「質問の枝分かれ」でできている
決定木は木を逆さにした形をしている。いちばん上の最初の質問を根(こん)、そこから伸びる「はい/いいえ」の分かれ道を枝、これ以上分かれない最終地点を葉(は)と呼ぶ。葉にたどり着いたときの結論が、そのデータに対するAIの答えになる。
たとえば「今日は傘が必要か」を決めるなら、こんな流れになる。
図: 決定木の流れ。実際は葉が何本にも枝分かれするが、1つの答えに至る道筋は上から下への一本道になる。
どうやって「良い質問」を選ぶ?——不純度という物差し
決定木の賢さは、「どの質問で分ければいちばんキレイに分かれるか」を自分で見つけるところにある。その物差しが「不純度」だ。分けたあとのグループが同じ答えばかりなら不純度は低く(=良い分割)、いろんな答えが混ざったままなら不純度は高い(=いまいちな分割)。決定木は、この不純度がいちばん小さくなる質問を選んで枝を伸ばしていく。
この「混ざりを減らす質問を選ぶ」を繰り返すのが学習だ。人がルールを1つずつ手で書くのではなく、データを見てAIが自動で質問の順番と境目を決めてくれる。ここが「機械学習」と呼ばれるゆえんである。
分類も回帰もできて、束ねると「森」になる
決定木は守備範囲が広い。「迷惑メールかどうか」のようにカテゴリを当てる(分類)のも、「来月の売上はいくらか」のように数値を予測する(回帰)のも、同じ枝分かれの発想でこなせる。葉が「ラベル」を返せば分類、「数値」を返せば回帰になるだけだ。
さらに強いのはここから。1本の決定木は素直だが、depthを深くしすぎると丸暗記(過学習)に陥りやすい。そこで木を何百本も育てて多数決させる「ランダムフォレスト」や、失敗を少しずつ直しながら木を継ぎ足す「勾配ブースティング」(XGBoost・LightGBM)が生まれた。これらは表形式データのAIコンペでいまも主力で、KaggleのようなAIコンペの上位でも木系モデルは常連だ。筆者の経験では、AIの仕組みを初めて学ぶなら決定木から入るのが、遠回りに見えていちばんの近道になる。
手を動かして「木の形」を目で見ると、理解は一段深まる。可視化つきの入門記事も参考になる。
aipulsejp.com ランダムフォレストとは | 決定木を1000本束ねると賢くなる理由 決定木の「次」の定番。多数決で精度が上がる仕組みを図解した続編。「なぜそう判断したか」を説明できる、数少ないAI
多くのAIは、なぜその答えを出したのかを人間が追いにくい「ブラックボックス」だ。決定木はその点で異彩を放つ。枝をたどれば「雨が降りそうで、風が弱いから折りたたみ傘」と、判断の道筋をそのまま言葉にできる。医療や金融のように「理由の説明」が求められる場面で、決定木や木系モデルがいまも選ばれるのはこのためだ。
決定木は、いわばAIが作る「診断チャート」である。難しい理論に踏み込む前に、この一本の木を眺めておくと、後で出会う複雑なモデルの見通しがぐっと良くなる。次に「AIが予測した」というニュースを見たら、頭の中で小さな枝分かれを描いてみてほしい。その一歩が、AIを「魔法」から「仕組み」に変えてくれる。
出典: scikit-learn「Decision Trees」(公式ドキュメント) / キカガク「決定木の可視化」 / 機械学習ナビ「決定木とは」。2026年7月14日時点。





