深夜、コードが動かない。エラーの原因も分からない。ふと画面の隅を見ると——猫が寝ている。VS Codeのエクスプローラーの下で、ドット絵の猫がすやすやと。「VS Code Pets」は、ただそれだけの拡張機能だ。それだけなのに、260万ダウンロード・評価4.93という数字を叩き出している。
作者はPython界隈の著名エンジニアAnthony Shaw氏。2021年の公開から5年たった今も現役で、つい先週の更新ではアライグマが仲間入りした。この記事では、飼い方(起動コマンド)から全26種のペット、そして「なぜ開発者はエディタに生き物を住まわせたがるのか」まで掘ってみる。
飼い方は30秒: 起動と基本操作
拡張機能ストアで「vscode-pets」をインストールしたら、コマンドパレット(Cmd/Ctrl+Shift+P)で「pets」と打って「Pets: Start pet coding session(ペットコーディングセッションを開始)」を選ぶだけ。サイドバーの小窓にペットが現れる。操作コマンドは公式に日本語化されていて、主要どころはこの通りだ。
| コマンド | 何が起きるか |
|---|---|
| ペットを生成(Spawn pet) | 2匹目以降を追加。種類と色と名前を選べる |
| ボールを投げる(Throw ball) | ペットが追いかけて取ってくる |
| 点呼(Roll call) | 全ペットが名前つきで挨拶 |
| テーマを変更(Change theme) | 背景を森・城・ビーチ・冬・秋に |
| ペットリストをエクスポート | 飼っている面々をファイルに保存(機種変更用) |
芸が細かいのは、2匹以上飼うと「❤️」を出して友達になり、追いかけっこを始めること。そしてペットの中には「Rocky(岩)」がいるのだが、ボールを投げても微動だにしない。公式ドキュメントいわく——「岩がボールを追いかけるのを見たことがありますか?」。この温度感が、この拡張のすべてである。
marketplace.visualstudio.com vscode-pets(公式・無料) 一次情報。インストールはここから。VS Code公式YouTubeでも紹介された定番拡張。26種のペットは「開発者文化の殿堂」でもある
ラインナップは猫・犬・うさぎ・カメといった王道から、トトロ、ヘビ、ニワトリ、カニ、そして岩まで26種類。よく見るとこのカニはRust言語のマスコットFerrisで、他にもDeno(恐竜)、.NETのMod、Teamsの雷坊やZappy——そしてあのClippy(90年代Officeの伝説のお節介アシスタント)までいる。開発者カルチャーの小ネタ図鑑として眺めるだけでも楽しい。
中でも文化的に正統なのがラバーダックだ。詰まったらアヒルのおもちゃに向かってコードを説明する「ラバーダック・デバッグ」(名著『達人プログラマー』由来)の、あの相棒がそのままエディタに住んでくれる。冗談のようで、声に出して説明するデバッグ法自体は本物の技術である——説明した瞬間に自分でバグに気づく体験は、誰にでもあるはずだ。
なぜ「何もしない拡張」が5年生き残ったのか
対照的な例がある。タイピングに合わせて画面が爆発する演出系の人気拡張「Power Mode」は、144万ダウンロードを集めながら2022年で更新が止まった。一方の何もしないペットは、2026年7月まで更新が続く現役だ。アピールする拡張は飽きられ、そこにいるだけの拡張は残った——リモートワーク時代に生き残ったのが「演出」ではなく「気配」だったというのは、なかなか示唆的だと思う。
そして2026年、この文化に新しい枝が生えている。AIエージェントの動作に反応するペットだ。Claude Codeの実行状態に合わせてアニメーションが変わる拡張などが今年相次いで登場していて、「AIが働くのを、ペットと一緒に眺める」という新しい構図が生まれつつある。エージェントに仕事を任せる時代の待ち時間は、たしかにペットの散歩にちょうどいい。
作業場に「小さな住人」がいるということ
実を言うと、当サイトにも画面の隅を歩き回るドット絵ロボット(PULSE-BOT)が住んでいる。だからこの拡張の気持ちはよく分かる——成果も効率も生まないものが、作業場をちょっとだけ「自分の場所」にしてくれるのだ。今日の帰り際、エディタに1匹どうぞ。おすすめは、もちろんラバーダック。次にコードが動かない夜、まず彼に説明してみてほしい。
出典: VS Code Marketplace(vscode-pets) / GitHub(tonybaloney/vscode-pets) / 公式ドキュメント。ダウンロード数等は2026年7月30日時点。





