2026年上半期、世界のスタートアップ投資は5,100億ドル(約75兆円)と過去最高を記録した。2025年の1年分を、わずか半年で追い越した計算だ。ところがその中身を開くと、豊作の風景は一変する。OpenAIとAnthropic——たった2社で2,170億ドル、全体の43%を吸い込んでいたのだ。
「史上最高」と聞けば、あちこちで芽が出る好況を思い浮かべる。だが投資件数はほとんど増えていない。増えたのは、1件あたりの桁である。米Crunchbaseの集計をもとに、この偏りの正体を数字で見ていく。
2社で43%——規模の感覚をつかむ
内訳はこうだ。OpenAIが上半期に調達したのは1,220億ドル。Anthropicが956億ドル。残りの世界中のスタートアップ全部を合わせて約2,900億ドルである。
1社の調達額が、国どころか「その他の全世界」の半分近くに達する。こんな分布は、ドットコムバブルの頂点にも存在しなかった。AI以外まで含めた米国全体の調達額でも、86%がAI企業に流れている。
件数は増えない——「広がりなき最高記録」
この記録には、もうひとつ奇妙な特徴がある。ディール(投資案件)の件数がほぼ横ばいなのだ。つまり、新しい挑戦者の裾野が広がったのではなく、選ばれた少数への張り込み額が桁を変えた。四半期ベースでは、世界のスタートアップ資金の7割超がAIに向かっている。
そして偏りは、夏になっても止まっていない。7月の単月集計では、10億ドルを超えるラウンドが14件と過去最多を更新した。Blue Origin、SSI、Moonshot AI——顔ぶれは変わっても、巨額が巨頭に落ちる構図は同じである。
news.crunchbase.com Global Startup Investment Hit Record $510B In H1 2026 一次情報。四半期別・分野別の内訳グラフが揃っており、この記事の数字の出どころでもある。「弾ける」と言う人たちの根拠
| 論者 | 根拠 |
|---|---|
| BIS(国際決済銀行) | 大手5社のAI設備投資が累計1兆ドル超に対し、収益の伸びが追いついていない |
| ジェレミー・グランサム(著名投資家) | OpenAIの2025年実績は売上約120億ドルに営業赤字80億ドル。「バブルが弾けない確率はごくわずか」 |
| Bank of America | 大型IPOが実現すればS&P500のテック比率が歴史的閾値の48%を突破すると警告 |
| Bloomberg等 | 投資先が投資元の顧客になる「循環融資」への依存を指摘 |
「1999年とは違う」と言う人たちの根拠
一方の実需派にも、それなりの弾がある。NVIDIAをはじめ供給側の決算には現実の売上が立っており、「利益なきドットコム」の再演ではないという主張だ。導入企業側の調査でも、350社の大半がAI投資のリターンを「非常に良い」以上と回答している。
それに、2社を一括りにするのも雑ではある。評価額を年間収益と比べると、Anthropicの約13倍に対しOpenAIは約35倍。同じ「AI巨頭」でも、値札の強気度はずいぶん違う。筆者は判定を保留したい派だが、件数が増えていないことだけは気にしている。裾野の広がらない繁栄は、歴史的に長持ちしていない。
答え合わせの会場は公開市場
私設市場(VC)の値付けは、信じる者たちの間でしか検証されない。だが下期には状況が変わる。SpaceXは750億ドル調達の記録的IPOを済ませ、OpenAIとAnthropicにも上場観測が続く。公開市場は、機関投資家から年金基金まで全員が値札を疑う場所だ。この43%が天才への正当な集中だったのか、出口のない賭けだったのか——答え合わせの会場だけは、もう決まっている。
なお、あふれるAIマネーは企業と国家の関係まで変え始めている。その象徴がOpenAIの政府への株式5%譲渡案だ。カネの行き先を追うと、次の景色が見えてくる。
出典: Crunchbase News(H1 2026集計) / Crunchbase News(7月単月集計) / SiliconANGLE / XenoSpectrum(日本語解説)





