中国のロボット大手UBTechが2026年6月30日、深センで発表した「UWORLD U1」は、シリコンの肌と感情認識を備えた「世界初のフルサイズ量産型」をうたう家庭用ヒューマノイドだ。日本円で約290万円から。出荷開始は9月16日と予告され、予約は累計13,361台と報じられた。
この1.3万台という数字、額面どおりに受け取っていいのだろうか。発表から1ヶ月あまり経ったいま中身を開くと、家庭用ヒューマノイドという市場の現在地が、意外なほど正直に見えてくる。
「働くロボット」ではなく「隣にいるロボット」
U1の仕様は、他社のヒューマノイドとは狙いが違う。全身88自由度、シリコン製の外皮、20種類以上の感情を9割超の精度で読むという感情AI。会話の口元の動き(リップシンク)の遅延は20ミリ秒以下をうたう。一方で、掃除も料理もほぼできない。売り物は労働ではなく、表情と会話——つまり「そばにいること」である。プライバシー配慮として、感情処理は本体内のチップで完結し、データは端末内保存が標準だ。販売は成人限定となっている。
| モデル | 構成 | 価格(元) | 日本円の目安 |
|---|---|---|---|
| U1 Lite | 上半身のみ | 119,800元 | 約290万円 |
| U1 Pro | 全身(男性型183cm/女性型168cm) | 169,800元 | 約410万円 |
| U1 Ultra | 全身・最上位 | 880,000〜990,000元 | 約2,100万〜2,400万円 |
「予約13,361台」を解剖する
さて、本題の数字だ。予約の受付は6月2日、中国ECのJD.comで始まった。必要なのは3,000元(約7万円)のデポジットで、しかも7月15日まで全額返金できる条件付きである。予約数は6月中旬に約5,000台、発表会当日に「販売チャネルで11,000台超、全チャネル累計13,361台」と積み上がった。この累計には「意向注文」——買うつもりがあると表明しただけの数——が含まれる。
そして発表会の後、勢いは急にしぼんだ。中国の経済メディアは、発表前に日次100台を超えていた予約が、発表後は累計200台にも届かないペースに落ちたと報じている。8月に入っても公式の更新はなく、各媒体は6月30日の「13,361」を引用し続けている。確定受注ではなく「関心の総量」を示す数字——それがフェアな読み方だろう。
赤字企業の、退路を断ったtoC進出
UBTechは2012年創業、2023年末に香港市場へ上場した「世界初の上場ヒューマノイド企業」だ。産業用のWalker S2は電池を自分で交換して働き続ける機能で注目を集め、BYDやFoxconnの工場に入り、受注は8億元を超える。だが会社全体では2025年も7.9億元の純損失で、赤字は3年で30億元を超えた。株価は年初来およそ4割安。B2Bで堅実に稼ぎながら、家庭向けという未開の市場に社運を張る——U1はその賭け金である。
生産面の制約も無視できない。年産能力は約1.5万台で、頭部だけで2,000を超える部品を手作業に頼る。仮に1.3万台が全部本物の注文でも、年内に届けきれるかは怪しいと中国メディアは指摘する。
2026年、家庭用ヒューマノイドの値段表
| 製品 | 価格帯 | 型 | 現在地 |
|---|---|---|---|
| UWORLD U1(UBTech) | 約$16.5K〜$136K | 感情コンパニオン | 9月16日出荷開始予定 |
| NEO(1X) | $20,000 or 月額$499 | 家事(遠隔操作併用) | 2026年後半出荷予定・納品実績は未確認 |
| Optimus(Tesla) | 目標$20K〜30K | 汎用(構想) | 一般販売は未定 |
| G1/R1(Unitree) | $5,900〜$13.5K | 開発者向け | 販売中 |
並べると、U1の立ち位置がはっきりする。1X NEOが「家事を任せる」を売り、TeslaのOptimusが「汎用の労働力」を目指すのに対し、U1だけが最初から「感情」で勝負している。中国で1億人を超えるとされる独居人口が、想定の主戦場だ。
買う前に知っておきたい3つの留保
実機レビューと中国メディアの評価には、冷静な指摘が並ぶ。第一に体力。フル充電での駆動は約2時間で、充電にも1時間かかる。第二に完成度。歩行の不安定さや「表情がまだ機械的」という感想は、好意的なレビューにも顔を出す。第三にプライバシーと倫理だ。カメラとマイクを持つ等身大の機械が居間に立つことへの抵抗感に加え、同社が語った「故人を模したレプリカ」構想には、海外メディアから強い拒否反応が出た。
「売れた」の定義が試される9月16日
筆者の関心は一点に尽きる。9月16日の出荷開始後、返金可能な「関心」のうち何割が、現物を受け取る「購入」に変わるのか。予約合戦の数字は演出できても、玄関先に届いた290万円のロボットと暮らし続けるかどうかは、演出できない。家庭用ヒューマノイド市場の最初の実地試験が、まもなく始まる。
出典: UBTech公式リリース(PR Newswire) / ITmedia NEWS / TechNode / 新浪財経(予約失速の分析)





